必修単位その④ 研究方法論 Research Method

Master of Physiotherapy(理学療法修士)に進学できることになり、留学生活2年目がスタートしました。この時点で私と同じ2017年入学のオタゴ大学理学療法学科の卒後教育(PGDip, Master, PhD)修了を目指す留学生は私の他にたった1人となってしまいました。入学時に4人いた留学生のうち2人は1年目の成績が規定に満たず修士課程へ進学することはできませんでした。海外の大学院では基準に達していない学生に容赦無く落第を突きつけてきます。1点でも足りなければアウトです。ですが彼らにも旧イギリス連邦圏の大学で一般的な卒後教育のエントリーレベルであるPGDip(修士課程の1つ下の学位)の称号が与えられるようです。

さて、運よくPGDipを修了し修士課程に進学できた私たちは全く初めての分野である研究方法論という授業と修士論文の2つの授業を取る必要がありました。今回は研究方法論という授業について紹介します。

PHTY610 Research Methods



参考書はこちらの800ページを超える本です。非常に重くて持ち運びが大変でしたが内容は日充実しています。電子書籍もあるのでしょうが、貧乏学生だったので中古で購入しました。授業が終われば売ってしまう学生がいるようで半額で買えました。

オタゴ大学のホームページからの抜粋とGoogle翻訳によると、この科目の目的と達成すべき項目について理解できます。以下オタゴ大学ホームページより引用https://www.otago.ac.nz/physio/postgraduate/papers/index.html?papercode=phty610#2022

本科目の学びの目的

無事に完了すると学生は次のことができるようになります。

  1. 理学療法における研究の役割と、科学的根拠に基づいた実践への研究の貢献について、仲間と話し合い、討論します。
  2. 主要な研究データベースの効果的かつ効率的な系統的検索を実行して、理学療法の研究の質問に関連する引用を見つけて管理します。
  3. 研究論文の学術的かつ厳密な批評/評価を実施し、情報に基づいた一貫した方法でこれらを提示します。
  4. 選択された研究分野を支える主要な倫理的および文化的問題を特定し、大学/臨床環境で研究を行うために必要な、マオリとの協議を含む正式なコンプライアンス要件の理解を示します。
  5. 理学療法研究への定性的および定量的方法論の貢献と、これらのアプローチを支える主要な原則と理論的枠組みを理解します。
  6. 理学療法に関連する科学的測定の原理に関する深い知識を示し、妥当性と信頼性のデータを自信を持って批判的に解釈できるようにします。
  7. これらのデザインの使用を体系的に批評できるように、主要な実験研究デザインの高度な理解を形成します。
  8. 意味のある関連性のある調査質問を作成し、その質問を調査するための適切な調査方法と分析戦略を開発する能力を個別に示します。
  9. 科学情報をフォーマットで、大学院生や上級開業医に期待されるレベルで提示すること。
評価/評価の割合

  • 専門的な文脈における現在の理学療法論文の研究方法論の批評的レビュー/30%
  • クラスのeラーニング活動/会議への貢献/10%
  • 個別研究プロジェクト/60%
上記のようにオタゴ大学の科目は全てその授業を終えることで何ができるようになるかがシラバスに明記されています。この項目を見てみると、論文から正確な情報を得る能力及びデータの解釈や研究倫理に関する文化的側面への配慮、ディスカッション及びコミュニケーション能力が必要であることが読み取れると思います。また、評価方法については1つ目のアサインメントが文献レビューを、もう1つは研究計画書を提出する必要があります。さらに、クラスへの貢献度の評価も10%と比較的高いと思います。

文献レビューについてはPHTY501Biomedical scienceや、PHTY543Orthopaedic manual therapyでも同様に提出する必要があったため新しく必要とされる能力はありませんでした。しかし、徒手理学療法はNZでも否定的なPTはいるようなので担当教官や評価者のバックグラウンドについては調べておいた方がいいと思います。研究計画書についてはすでに研究活動を行なっている方なら分かると思うのですが、研究開始前に大学や研究機関、病院などに設置されている倫理委員会に提出する書類のことです。その後倫理審査を経て研究活動をスタートすることができます。この書類を、実現可能性や一般化可能性、新規性から投稿予定のジャーナルまで全て実際に行う研究レベルで作成します。

見逃せないのがクラス会議への貢献度についてです。この科目は毎週1回、オタゴ大学中央図書館の1階にある会議室にて授業とディスカッションへの参加が必要です。私が何よりも自分の英語能力が不足していると感じたのがこの研究を題材としたディスカッションでした。受講生は遠隔でニュージーランドやオーストラリアの院生が10名程度、現地の院生と留学生で3人程度が参加するのですが、その会話のスピードと内容についていけないことが多々ありました。この時点で私はニュージーランドに1年滞在していたのですが、慣れない研究用語と学士の時点ですでに研究論文を課題として読んでいる彼らとの経験の差を感じました。

私の当初の留学目的は

  • 本場で徒手理学療法を学びたい
  • 理学療法士の社会的地位が高い場所で働いてみたい
という、臨床的に日本との違いに非常に興味を持っていたため、この研究方法論については恥ずかしながらこの時に初めて学び始めました。そのため、すでに日本語にもなっている専門用語すら当初は理解できず、辞書で引いてそれをネットで検索するというとても時間がかかる工程を繰り返す必要がありました。

SpPin, SnNout

OMPTの養成組織は数多くありますが大学院を選ぶ利点として研究者の視点も養えることが挙げられます。経験や手先の感覚だけに頼らず自身の推論も含めて批判的思考を行うことが今後理学療法士に求められると思います。理学療法も世界的潮流からは逃れることはできません。時代は専門職に根拠を要求しているようです。

さらに翻訳過程を経ることなく直接英語を理解し発信することは、おそらく論理的思考の良い練習になると思います。ネイティブの院生は議論中に言葉が詰まったり考えが至らなくても日本人のように愛想笑いをして誤魔化したりしません。議論の相手が年上で社会的地位が高くても、遠慮はありません。疑問に思ったことは遠慮なく質問しますし、答弁に満足が行かなければあからさまにがっかりした態度を示す人もいます。このような他者の学術的態度に傷ついたり、うまく説明できて喜んだりした経験は何者にも代え難いと今では思います。

英語で研究方法論を学ぶメリットとして最も有益なのは英語での論文執筆能力の向上が挙げられます。英語で発信すれば当然世界中のより多くの読者に読んでもらえます。また臨床では英語で書かれた論文を読んで理解する方が、同じ論文や参考書が翻訳されるのを待つよりも格段に早く、世界的な理学療法の研究スピードについていくことが出来ます。ですが、このハードルがとても高かったのを覚えています。この頃は朝から晩までずっと図書館でひたすら勉強する必要がありました。臨床の科目とは異なり基本的に全てオンラインでも実施できる内容だったので、担当教官とは週1回のクラス以外にメールでやりとりするだけで方向づけをしてもらうことができました。結果的にこの時の勉強により英語論文を読んで理解することができるようになったのではないかと思います(あくまで専門分野に限りますが)。

オタゴ大学の理学療法修士過程を修了された日本人は私の知る限り数人おられますが、大半がすでに日本で修士課程を修了されていました。学費やかかる時間、重複してしまう学位などデメリットもあると思いますが、できれば日本語で先に修士課程を修了しておくと私のような目には合わずに、学術的な英語の話し方やディスカッションの仕方などなかなか普段普段触れる事のない機会に集中することができるのではないでしょうか。この単位は本当に労力を要しました…一発勝負で落とせば博士進学の道は断たれます…。

結果的に1セメスターが過ぎてこの単位をパスすることが出来たのですが、私にもともと研究分野の基礎知識がすでにあり、英語の勉強に多くの時間を割いてディスカッションの準備をすることが出来ていればもっといい成績を納めることが出来たと思います。修士過程の留学を検討されている方はぜひ参考にしてみてください。

では次回は最後の必修科目である修士論文についてです。




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