必修単位その②−3: PHTY543: Orthopaedic Manipulative Therapy, Maitland concept

今回はMaitland concept(メイトランド)についてです。

近年ではモビライゼーション/モビリゼーションは理学療法の1治療手技としての地位を確立していると思います。
注:Mobilisationはイギリス英語表記、Mobilizationはアメリカ英語表記。モビライゼーションはオセアニアでの呼称、モビリゼーションはヨーロッパやアメリカでの呼称。こちらのブログではモビライゼーションで統一します。

日本で有名なのはカルテンボーン・ユーベンスコンセプトの関節モビライゼーションではないでしょうか。滋賀の専門学校で特別コースを実施されていますね。私の元同僚もそちらでDiplomaを取得されOMPTの認定を受けられました。持続的伸長により関節内副運動の過少運動性にアプローチします。こちらのコースを修了され、日本理学療法士協会運動器理学療法学会の徒手理学療法部門の認定を受けられた先生は2011年時点で40人程度だそうです ※整形徒手理学療法 Kaltenborn-Evjenth Concept 富雅男・砂川勇監修(2011)医歯薬出版より参照

日本国内のOMPT認定者数は現在100人程度まで増えているようです。
国内でOMPTの認定コース兼PGDip(Postgraduate Diploma=修士の前段階の卒後資格でイギリス系の大学で一般的。取得すると修士を目指すことが可能)を取得できるコースは現在はありませんが首都大学東京が認定を目指しているようです。残念ながら私が留学した時にはありませんでしたが今なら選択肢の一つになりますね!

話が逸れましたが現状で判断すると日本でモビライゼーションといえばカルテンボーンユーベンスコンセプトが普及していると言っていいでしょう。メイトランドコンセプトはオーストラリアやニュージーランドでは非常に人気のある手技ですがいまひとつ日本では普及していないようです。

オタゴ大学の講師陣はメイトランドコンセプトを習得している先生が多数いらっしゃるのでニュージーランドでモビライゼーションといえばメイトランドコンセプトとほぼ同義で振動(Oscillation)を用いるのが一般的なのかなという印象を私は持っています。

ここで注意したいのはどちらのコンセプトがより優れているのかどうかではないというところです。OMPTはエビデンスに基づいた根拠のある治療を患者に実施しなければなりません。例えば、この患者の肩関節内旋動作の拡大にはメイトランドよりカルテンボーンの持続伸張の方が効果があると思われる。さらに結滞動作を拡大するにはマリガンのMWMがより効果的なようだ。など、臨床的推論から導き出された治療手技を評価・再評価の結果にしたがってより有効な介入方法を取捨選択する能力が非常に大事になってきます。

個人的な手技の上手い下手はあるにせよ、好き嫌いによってセラピストの臨床能力が頭打ちになってしまうのは勿体無いですし、患者の利益に反すると私は考えています。

メイトランドコンセプトの一番の特徴は振動(Oscilltaion)を加えることと、5段階のgrade設定ではないでしょうか。振動を抵抗のある関節内副運動に加えることで関節可動域を増加させるというテクニックは非常に有効です。実際、肩関節周囲炎いわゆる40肩のROM拡大にはこのテクニックは欠かせないと私は考えています。もちろん持続的伸長も使いますが、部分的な関節包の短縮にはこちらの方が効果があるようです。研究でも臨床的に非常に有用なテクニックであると示唆されるという論文をよく見かけます。

もう一つの特徴であるグレード5までの他動運動の設定ですが、カルテンボーンはグレード3までの分類です。メイトランドのグレード4までは日本でも認知されているモビライゼーションのイメージと同じと考えていいでしょう。
グレード5はいわゆるマニピュレーション、HVLT (High Velocity Low amplitude Thrust) と言われる程振幅で高速のスラストです。メイトランドコンセプトを習うことで関節マニピュレーションの習得ができるということですね(私はNZ manual therapyのHVLTを学んだので脊柱のメイトランドコンセプトのgrade5については情報がありません。おそらくオーストラリアに留学した先生の中にはより詳しい方がいらっしゃると思います。)HVLTは日本では賛否両論のテクニックですがニュージーランドでは一般的な介入方法です。肋骨の位置異常による肋間神経痛や上位頚椎の位置異常による頭痛の治療などでは理学療法クリニックでは上位に上がる治療方法の一つではないでしょうか。治療時間が短いのでクリニカルリーズニングが間違っていなければ非常に有益です。もちろんテクニックとしては簡単ではありませんし習得には一定期間練習する必要があります。

オタゴ大学ではメイトランドコンセプトに順ずるモビライゼーションを習いましたが、現在私は多数のコンセプトを患者の適正に合わせて使い分けられるよう努力しています。そのためにはより多くの治療手技を勉強し、その専門家と意見交換を行うのが重要であると考えています。私のスーパーバイザーだったスティーブの言葉で好きな言葉があります。

If you have a big tool box with full of tools, you just need to choose the right tool for the right patient.

今は後進に同じように教えています。

コメント