必修単位その②−1: PHTY543: Orthopaedic Manipulative Therapy, Spinal manipulation with Michael Monaghan
Orthopaedic Manipulative Therapy、整形外科的徒手理学療法はセメスター1にBiomedical scienceと同時期に履修しました。留学生は1セメスターに2単位の取得が可能です。
こちらは私の専門分野である整形外科理学療法と徒手理学療法を組み合わせた単位(Paper)です。もともと留学を志したのもよりレベルの高い徒手理学療法を学びたいとの思いからでしたのでこの授業を受けるためにニュージーランドに来たと言っても過言ではありません。
事実、この単位は非常に勉強になりました。
というのは大学選択時の過去記事でもご紹介した通り、徒手療法の世界的権威でもあるブライアン・マリガン先生、オステオパスとしてもご高名なマイク・モナハン先生のお二方から直接指導していただける機会があります。
まずはレジデンシャルウィーク1回目にマイク・モナハン先生からHVLT (High Velocity Low amplitude Thrust) を学びました。マニピュレーションとも言いますね。関節モビリゼーションは日本でも多くの理学療法士が実践していると思いますが、HVLTを学ぶ機会は私はありませんでしたので非常に興味深いものでした。グレード5 (Maitland concept) で関節可動域最終域から高速度低振幅のスラスト (押す力?いい日本語があれば教えてください) を関節面に加え、関節の運動制限を解消するテクニックを意味します。
徒手理学療法を行う上でモビリゼーションとマニピュレーションの違いは必ず認識しておかなくてはなりません。モビリゼーションは関節の最適な運動・機能の再獲得及び/もしくは疼痛の軽減を目的とした関節に対する様々な速度・振幅・振動を伴う連続した他動運動を加えることを意味します。両者の違いは治療時間にも如実に現れます。優れた診断の上に実施される必要があるのは言うまでもありませんが、マニピュレーションはとにかく治療時間が早く一瞬で済みます。反対にモビリゼーションは効果が現れるまでの時間に個人差があるためある程度の長さを数回に渡って行うこともあります。ちなみにオタゴ大学ではメイトランドコンセプトに則ったモビリゼーションを学ぶことができました。振動(Oscillation)を使うのが特徴的でしょうか。カルテンボーンとは印象が異なります。
さてマニピュレーションですが、まずは触診ですね。正確に脊柱の各分節を触知し動かすことができなければ治療にならないばかりか危険です。特に頚椎は頭痛など引き起こすこともありますので安全になおかつ効率よくアプローチしなければいけません。また治療時は禁忌の確認やVBIテストなどのセキュリティテストは必須です。
触診についてはとにかくNZのフィジオ (Physiotherapist = PT) は日本の理学療法士と比べて上手だと思います。実際聞いてみたのですが学士でしっかりと習っているそうですね。モナハン先生はさらに別格というくらいタッチが正確で柔らかいと言った印象でした。さらにその速度には驚愕しました。脊椎の触診時に後頭骨隆起から下に下がって…とか第七頚椎棘突起から上に…と数えずとも、指を置いたところがその分節なんですね。数人で後から数えて確認したので間違い無いと思います。まさにエキスパート…。
マニピュレーションの良いところは関節にジャミング(詰まったような状態でこちらのPhysioはよくそう言います。)が起こっている場合すぐにアプローチできるところだと思います。前述下通り治療時間は短くすることができるため非常に役にたちます。第2セメスターで臨床実習があるのですが、その時もこのテクニックを使う機会が多かったです。臨床的推論が当たるとうまくいけば一回の治療で終了することができました。患者の主な要求は疼痛の緩和なので、HVLTにより正常な関節運動を再獲得した場合痛みも同時になくなるためでしょう。臨床実習を通しての私の経験則ではありますが、評価・治療・再評価の流れで最も効果的なのがHVLTでした。疼痛の緩和を伴うことが多いので患者の満足度も高いですね。
HVLTを使わずモビリゼーションのみで治療を行うこともありましたが効果が比較的緩やかな印象を持ちました。というのもまず時間がかかりますし、強度のジャミングを解放するのには効果は限定的なのかもしれません。もちろんモビリゼーションのエキスパートとなるとまた見解が異なると思います。この辺りはそれぞれの好みにより見解が分かれるところでもあると思います。
エクササイズなどの運動療法と比べてエビデンスレベルでは低く賛否両論ある徒手療法ですが、関節のジャミングが原因で起こる運動・機能制限と疼痛に短時間でアプローチできるというメリットは非常に魅力的だと私は思います。もちろん、安全確保は確実に行う必要がありますし、治療面のみにスラストを加えるテクニックも何度も練習する必要があります。また脊柱の1分節、右側の椎間関節のみにスラストを加えるといったような正確性が安全に治療を行う上で欠かせません。狙いを定めたセグメント以外にキャビテーションを起こしても治療とは言えません。
HVLTやモビライゼーションはインナーバッグ(関節包内)の問題にアプローチできるため、関節可動域制限の原因が関節包に由来する場合著効を示します。逆に言えば、インナーバッグに問題がある場合、アウターバッグ(関節包外)にストレッチや筋力トレーニングでアプローチしようともなかなか改善は得られないと考えられます。インナーバッグとアウターバッグの考え方は筋膜へのアプローチで有名なアナトミートレインに分かりやすく図示されています。
HVLTを使えるようになることで患者の要求にダイレクトに答えられる可能性が高くなるのは間違いないのではないでしょうか。担当教官であるスティーブ先生が良く「DIYや修理をする時、ツールボックスにたくさん道具が入っていた方がいいでしょう? 徒手療法も同じ。色々な手技を患者に合わせて使うのがいいのでは。」と言っていましたが私もその通りだと思います。
HVLTの例を一つ挙げると、比較的簡単なのは 仙腸関節・腰椎椎間関節の機能制限に対するChicagoテクニックだと思います。こちらはあるClinical prediction ruleで取り上げられています。Flynn et al. (2002)によりますと、
の5兆候を満たす患者71人のうち32人に腰痛軽減効果があったとのことです。
Flynn, T., Fritz, J., Whitman, J., Wainner, R., Magel, J., Rendeiro, D., ... & Allison, S. (2002). A clinical prediction rule for classifying patients with low back pain who demonstrate short-term improvement with spinal manipulation. Spine, 27(24), 2835-2843.
私の経験でもこのテクニックは役にたちました。被検者の体幹をひねるのを遠慮してしまいそうになりますが…。YouTubeでもたくさん動画があると思いますので興味のある方はぜひ。全てのテクニックについて言えることですが治療はともすれば患者にとって危険を及ぼすこともありますのでまずは講習会などに参加しセラピスト同士で練習し、その後自己責任で運用してください。時間も労力ももちろんかかりますが、実施可能な治療手技の数が増えることはセラピストと患者双方のメリットとなると私は思います。
マスターコースの生徒は治療ベッドなど含めた教室を常に自由に使うことができたので良くクラスメイトと練習しました。介入方法を練習する際は手順を声に出しながらハンドリングを行うことで治療者役、患者役、指導役全員が状況を把握することができます。手順に誤りがあればその都度お互いに訂正しあうことができます。また、患者役からのエンドフィールに関するフィードバックは非常に重要です。セラピスト同士で練習することで感覚を共有できるためです。徒手療法の技術を上達させるためには適切なフィードバック、スーパーバイズと練習あるのみです。
長くなりましたので今日はこのあたりで。
次回はマリガンコンセプトについてです。
こちらは私の専門分野である整形外科理学療法と徒手理学療法を組み合わせた単位(Paper)です。もともと留学を志したのもよりレベルの高い徒手理学療法を学びたいとの思いからでしたのでこの授業を受けるためにニュージーランドに来たと言っても過言ではありません。
事実、この単位は非常に勉強になりました。
というのは大学選択時の過去記事でもご紹介した通り、徒手療法の世界的権威でもあるブライアン・マリガン先生、オステオパスとしてもご高名なマイク・モナハン先生のお二方から直接指導していただける機会があります。
まずはレジデンシャルウィーク1回目にマイク・モナハン先生からHVLT (High Velocity Low amplitude Thrust) を学びました。マニピュレーションとも言いますね。関節モビリゼーションは日本でも多くの理学療法士が実践していると思いますが、HVLTを学ぶ機会は私はありませんでしたので非常に興味深いものでした。グレード5 (Maitland concept) で関節可動域最終域から高速度低振幅のスラスト (押す力?いい日本語があれば教えてください) を関節面に加え、関節の運動制限を解消するテクニックを意味します。
徒手理学療法を行う上でモビリゼーションとマニピュレーションの違いは必ず認識しておかなくてはなりません。モビリゼーションは関節の最適な運動・機能の再獲得及び/もしくは疼痛の軽減を目的とした関節に対する様々な速度・振幅・振動を伴う連続した他動運動を加えることを意味します。両者の違いは治療時間にも如実に現れます。優れた診断の上に実施される必要があるのは言うまでもありませんが、マニピュレーションはとにかく治療時間が早く一瞬で済みます。反対にモビリゼーションは効果が現れるまでの時間に個人差があるためある程度の長さを数回に渡って行うこともあります。ちなみにオタゴ大学ではメイトランドコンセプトに則ったモビリゼーションを学ぶことができました。振動(Oscillation)を使うのが特徴的でしょうか。カルテンボーンとは印象が異なります。
さてマニピュレーションですが、まずは触診ですね。正確に脊柱の各分節を触知し動かすことができなければ治療にならないばかりか危険です。特に頚椎は頭痛など引き起こすこともありますので安全になおかつ効率よくアプローチしなければいけません。また治療時は禁忌の確認やVBIテストなどのセキュリティテストは必須です。
触診についてはとにかくNZのフィジオ (Physiotherapist = PT) は日本の理学療法士と比べて上手だと思います。実際聞いてみたのですが学士でしっかりと習っているそうですね。モナハン先生はさらに別格というくらいタッチが正確で柔らかいと言った印象でした。さらにその速度には驚愕しました。脊椎の触診時に後頭骨隆起から下に下がって…とか第七頚椎棘突起から上に…と数えずとも、指を置いたところがその分節なんですね。数人で後から数えて確認したので間違い無いと思います。まさにエキスパート…。
マニピュレーションの良いところは関節にジャミング(詰まったような状態でこちらのPhysioはよくそう言います。)が起こっている場合すぐにアプローチできるところだと思います。前述下通り治療時間は短くすることができるため非常に役にたちます。第2セメスターで臨床実習があるのですが、その時もこのテクニックを使う機会が多かったです。臨床的推論が当たるとうまくいけば一回の治療で終了することができました。患者の主な要求は疼痛の緩和なので、HVLTにより正常な関節運動を再獲得した場合痛みも同時になくなるためでしょう。臨床実習を通しての私の経験則ではありますが、評価・治療・再評価の流れで最も効果的なのがHVLTでした。疼痛の緩和を伴うことが多いので患者の満足度も高いですね。
HVLTを使わずモビリゼーションのみで治療を行うこともありましたが効果が比較的緩やかな印象を持ちました。というのもまず時間がかかりますし、強度のジャミングを解放するのには効果は限定的なのかもしれません。もちろんモビリゼーションのエキスパートとなるとまた見解が異なると思います。この辺りはそれぞれの好みにより見解が分かれるところでもあると思います。
エクササイズなどの運動療法と比べてエビデンスレベルでは低く賛否両論ある徒手療法ですが、関節のジャミングが原因で起こる運動・機能制限と疼痛に短時間でアプローチできるというメリットは非常に魅力的だと私は思います。もちろん、安全確保は確実に行う必要がありますし、治療面のみにスラストを加えるテクニックも何度も練習する必要があります。また脊柱の1分節、右側の椎間関節のみにスラストを加えるといったような正確性が安全に治療を行う上で欠かせません。狙いを定めたセグメント以外にキャビテーションを起こしても治療とは言えません。
HVLTやモビライゼーションはインナーバッグ(関節包内)の問題にアプローチできるため、関節可動域制限の原因が関節包に由来する場合著効を示します。逆に言えば、インナーバッグに問題がある場合、アウターバッグ(関節包外)にストレッチや筋力トレーニングでアプローチしようともなかなか改善は得られないと考えられます。インナーバッグとアウターバッグの考え方は筋膜へのアプローチで有名なアナトミートレインに分かりやすく図示されています。
HVLTを使えるようになることで患者の要求にダイレクトに答えられる可能性が高くなるのは間違いないのではないでしょうか。担当教官であるスティーブ先生が良く「DIYや修理をする時、ツールボックスにたくさん道具が入っていた方がいいでしょう? 徒手療法も同じ。色々な手技を患者に合わせて使うのがいいのでは。」と言っていましたが私もその通りだと思います。
HVLTの例を一つ挙げると、比較的簡単なのは 仙腸関節・腰椎椎間関節の機能制限に対するChicagoテクニックだと思います。こちらはあるClinical prediction ruleで取り上げられています。Flynn et al. (2002)によりますと、
- 発症時期< 16 days
- FABQ work subscale score < 19
- 少なくとも片側の股関節の内旋可動域が35°以下
- 腰椎の過小運動性
- 膝から遠位は症状が無い
Flynn, T., Fritz, J., Whitman, J., Wainner, R., Magel, J., Rendeiro, D., ... & Allison, S. (2002). A clinical prediction rule for classifying patients with low back pain who demonstrate short-term improvement with spinal manipulation. Spine, 27(24), 2835-2843.
私の経験でもこのテクニックは役にたちました。被検者の体幹をひねるのを遠慮してしまいそうになりますが…。YouTubeでもたくさん動画があると思いますので興味のある方はぜひ。全てのテクニックについて言えることですが治療はともすれば患者にとって危険を及ぼすこともありますのでまずは講習会などに参加しセラピスト同士で練習し、その後自己責任で運用してください。時間も労力ももちろんかかりますが、実施可能な治療手技の数が増えることはセラピストと患者双方のメリットとなると私は思います。
マスターコースの生徒は治療ベッドなど含めた教室を常に自由に使うことができたので良くクラスメイトと練習しました。介入方法を練習する際は手順を声に出しながらハンドリングを行うことで治療者役、患者役、指導役全員が状況を把握することができます。手順に誤りがあればその都度お互いに訂正しあうことができます。また、患者役からのエンドフィールに関するフィードバックは非常に重要です。セラピスト同士で練習することで感覚を共有できるためです。徒手療法の技術を上達させるためには適切なフィードバック、スーパーバイズと練習あるのみです。
長くなりましたので今日はこのあたりで。
次回はマリガンコンセプトについてです。
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